ちょっと前まで法学部の学生だった事務員M
IT知識が豊富な最近の人だ。
古色蒼然をある種の美学と考える私とは対極で
議論していると面白い。

弁護士というのは法律を扱う仕事
解釈は種々あれど条文という形のあるものだ。
法と論理を駆使して仕事をしている。
ここでいう論理は社会科学分野特有のもので,
社会通念やら常識やらで間隙を埋めることはある。
しかし,きちんと説明し説得することに気持ちよさを感じたりもする。

そんな仕事をしている私は道徳の話が嫌いだ。
法律家が道徳を語ることに,
忌まわしさを感じるのだ。

事務員Мは映画 minamataを観たらしい。
それも2回。ユージンスミスの写真集も見せてもらった。


水俣病を扱った映画
製作と主演はジョニーデップ・音楽は坂本龍一。
ジャーナリストのユージン・スミスが水俣を訪れて,
メチル水銀に蝕まれた水俣の現状を写真に収めようと奔走する話らしい。
写真は雄弁だ。
信念のぶつかり合いや人の誇り,生命力。
被写体の歴史
何を夢見て誰を愛したのか,という人の人生
それが一枚に概括されている。

同業と水俣病の話をすると必ず刑法や行政法の判例の話になる。
最高裁まで争われた著名な判例が多くあるのが水俣病。
教科書に書いてあった4大公害病
判例百選掲載判例
それで知っているのが水俣病だ。
私も判例や教科書の知識しかなかった。
写真でみる水俣は,
私がそれまで見聞きしていた水俣とは違った。

公害病には行政の認定が必要になってくる。
法律上の確定があるまでは,
公害は公害ではないということ
それまでは社会的に許された事業活動なのだ。

水俣を見たユージンスミスは,
法律的に確定されなければ公害は犯罪ではないという道徳観こそが,
公害を起こす道徳観だといった。
当然,そのような道徳観が社会を支配しているわけではない。
しかし,
道徳は時にどこかへ行ってしまうことがある。
努々,忘れないようにしなければ。