月: 2021年9月

持株比率が5050 ⑴

人間が意思決定ができないことを原因として動かなくなることがあまりない。
これ,動きの定義にもよるけど。
社会的に意味のある動き,と定義すればあり得るのかも知らん。

法人は意思決定ができず,
動けなくなることがあるらしい。

これは最近,相談を受ける問題。
会社のデッドロックという。

2人が議決権を50%ずつ保有する会社で,
意見が対立する場合が典型例
他に拒否権付種類株式の株主が常に拒否権を発動する場合にも生じる。
それと会社の全株保有株主が突然死して相続人がいない場合。
全株保有株主突然死事案は実際にあった。
会社内部の膠着状態は、大株主が認知症になった場合にも生じる。

案外,身近で起きる問題である。

株式会社の場合,株主総会の決議は過半数でとる(会社法309条1項)。
過半数だから50%超の決議が必要で,
50%ちょうどだと決議ができないわけだな。
・・で,何も決議ができない状態に陥る。
役員の選任も過半数で決議
会社の買収とか経営権の取得は役員の選解任が自由にできる状態を指す。
取締役を選任して業務執行をさせる状態だからな。
買収や経営権の取得は過半数(例えば持株比率51%)を目指すことになる。

さて,会社のデッドロック
最近たまに聞く問題。
100%保有株主が死んで2人が相続した場合に簡単に生じる。
100%保有株主が代表取締役というのはよくある。
さらに相続人2人の仲が悪いことも結構ある。
   →相続人が2派にわかれて50%ずつ保有,というのもありそう。
仲が良くも悪くもなかったが,
相続した株式と会社を巡って対立し,仲が悪くなることもよくある。
実はここ1年で何件か相談を受けた。
すでに生じたデッドロックの打開と将来生じる可能性があるデッドロック


問題は,デッドロックの処理だ。
タイムリーな話題のようで,結構議論されている。
もともとは合弁会社のデッドロック対策で発展した分野らしい。

協議も訴訟も手段の一つ

自身の利益や権利を害されたり,
脅かされたり・・
生きていればいろんなことがあります。

全身全霊で抗い,声を上げる。
泣き寝入りはしない。
そんな決断をした方からの相談。
縁があって私の事務所に来てくださったのですから,
私も全身全霊で応援しますよ。
法的な面で。

よく「訴訟することにした。」と言われることがあります。
確かにいきなり訴訟もあります。
ですが,まずは弁護士が代理人となって協議を行うことが通常です。
これはあくまで話し合い。
弁護士が代理人に就きますと,法的な主張を行います。

一般的なのは,「あなたは,法的に私の依頼者に~円を支払う義務があります。」という主張。
この「法的に」の部分を聴き取った事実を基に構成するのが,
私の仕事です。私には権利があって,相手には義務がある~♪

相手さんも納得して支払いが可能であれば,
応じてくれます。
言い分もあるでしょうし,認識の違いもあります。
協議が成立しなかった場合は,通常は訴訟に進みます。
訴えの提起や調停の申立て,です。
裁判所を交えた話し合いをして,
最終的には判決で結論が出ます。

紛争の真相はわからないけど,
裁判官が証拠に基づいて権利があるかどうかを判断してくれます。

協議も訴訟も紛争を解決するための手段です。
どの手段がよいかは,
見通しを考えて選択する必要があります。

事実関係をお話しください。
私の方から最善の提案をさせていただきます。

依頼者が決めはったことやしな

今年は天気が悪い日が多い。
遊ぶとしても不可視の制約があるから,
ちょうどいいのかもしれん。
秋らしく読書する,とか。

今週も依頼がいくつか・・
最近はちょっとしたことでも,現場に行く。
・・で,孤独のグルメスタイルでご当地の名物を楽しむ。

ガモウスマイルのどて焼きまぜそば
ここは朝からやってる。
朝からラーメンやまぜそばを食べたい麺フリークの夢が叶う店だ。
神戸の灘にも「ぼっかけそば」というのがある。
こちらもどて焼きを麺に絡ませて食べる。
ガモウのまぜそばはシンプルだった。
艶やかな卵の黄身をつぶしてネギと混ざったところを摘まむんだ。
朝から滋養あふれる食事である。
で,最後に白飯を投入してな。
特別な一日になりそうな予感がするな。


そういえば私の事務所は依頼者が決めたことを応援する,
というコンセプトみたいなものがある。

自分らしい決断を重ねることが,
豊かな人生を送ることにつながる。
私はそう信じているからな。

依頼者やそのご家族と話をしていると思う。
たいがいな苦境に陥ってから来る人もいるけど,
うちの事務所に来る人は,現状を変えようとして決断している。
何かを変えようと決断して動くのはしんどいもんだ。
同じ状態を維持する方が楽,だからな。

それは私にもよくわかる。

でも変わらなければならないと,
決断して弁護士に依頼する。
今のままではダメで自分自身が変わろうと決める。
その判断,私は全力で応援したいと考えてる。

何を保証したのかわからん

今週は裁判所に何回か赴きました。
遠方は早々にウェブ会議にしてもらいましたが,
他は出頭です。裁判所は徒歩圏内なので楽です。

最近,相続の相談を受けます。
比較的若い人も自分の相続のことを考えるようです。
最初はどこまで本気かわかりませんでしたが,
昨今の情勢からいろいろと考えるのでしょう。
何かあった時に迷惑をかけたくない,と。

迷惑というもの,
話を聞いていると自分の法定相続人を指すようです。
次に会社を経営している人は従業員と会社のこと。
債権者への迷惑はあまり考えないようです。
誰かが相続財産の中から清算してくれるだろうと。
この煩わしさも法定相続人の迷惑に含まれるようです。
遺言作成はそれほど難しいものではないです。
私は軽い気持ちで作成することを勧めます。

さて,
当然死ねばプラスもマイナスも相続されます。
自分が保証人となっている場合,
保証債務は保証人に相続されることになるのか。
基本的には相続されます。
相続人は被相続人(死んだ人)の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条ただし書き)。
しかし,保証債務の場合は責任の範囲について制限があります。
理由は保証人の保護です。
先日,話に出たのは不動産賃貸借の保証です。
(例:マンション入居時の連帯保証)
これは一定の範囲に属する不特定の債務の保証で,
根保証と呼ばれるものです(民法465条の2第1項)。
不動産賃貸借契約の場合は,賃貸借期間中に負担する一切の債務の保証。
信用保証ほどではありませんが,
保証人にとって予想外の債務となる場合があり,
保証人を保護する必要性が高い分野です。

改正法は,主債務の元本確定事由を定めました(民法465条の4第1項1号ないし3号)。
これにより保証債務の範囲も確定されることになります。
具体的には,債権者が保証人に強制執行した時や主債務者又は保証人が死亡した時です。
相談者はマンション入居時に子に保証人になってもらったそうですが,
相談者が死亡した時には元本が確定します。
※1 元本確定期日(民法465条の3)の規定は不動産賃貸借に適用なし。

元本の確定は,主たる債務者(賃借人)の死亡時点。
すると孤独死して発見が遅れ,
特殊清掃が必要となった場合の清掃費用はどうでしょうか。
これは賃借人の死亡後に発生していますので,
保証債務に含まれないことになります。
もっとも,個別の保証契約の趣旨に反する場合もあると思われますので,
裁判で争われることになるのではないかと予想しております。

※2 令和2年4月1日より前に保証契約が締結された場合に新法は適用されません(民法附則21条)。 

大阪・堺は商人の街♪

日が落ちると秋っぽい風が吹く。

先日は大阪地裁堺支部にいった。


堺は言わずと知れた大阪の政令指定都市。
堺と言えば,
千利休
水ナス
芥子餅
くるみ餅
打ち刃物
古代人の墓
線香とタオル・・

全国的に知られた特産品の類は大阪市より多い気がする。
地裁の堺支部,以前は趣(古い)がある建物だった。
建て替えてとてもスタイリッシュ(無機質)になった。
私は趣のある裁判所が好きだな。
事務所で商人支援とか言ってる以上,
堺の地を踏むと何となく身が引き締まる。

タイトルとは関係がないけど,
私は司法修習生の時によく堺にきた。

堺は大阪刑務所と少年鑑別所があることでも有名。
いずれも住宅街の中にある。ぽつんとな。
外から眺めると人がいる気がせず,
落莫とした佇まいの建物だ。
私も司法修習生の時はよく足を運んだ。
今は知らんけど,鑑別所には飲料の自販機があって,
少年に差し入れて渡すことができた。神戸の鑑別所はダメ。
「まあ,飲めよ。」とな。
テキトーな雑談から始めて,いろいろと話をしていく。
私が修習生の時に指導を受けていた先生は,
人への興味と関心が強かった。
これは弁護士の仕事で結構,重要なこと。
少年は関心を向けられていることが嬉しいらしく,
心を開いていたな。
現場を見て当事者と話をすること。
その上で,
少年事件の意見書は資料を参照することなく一気に書き上げていた。
裁判官に知っておいてほしいことが,
自然と浮かんでくるらしい。
書き上げた書面には,言い知れぬ威があった。
言い分や関係がある事情,そして事実
見聞きした者にだけわかる具体的な事実
これを法的に主張する。
その主張が当時の私には輝く礫のように感じられた。

修習生の指導担当になる弁護士には,
それなりの理由があるんだな,と。

ま,とりあえず真似でもしてみるか。

まるはのかつ丼


南海堺東駅西口前の信号を渡ってすぐ。
ここはかつ丼だけの店
卵とじなんだけど,出汁がポイントだな。
急いで昼食を食べて,地裁堺支部に。
そのあと鑑別所に行く。
それほど昔の話ではないけど懐かしく感じる。

私はのんびり食べるのが好きだけど,
当時は3分ぐらいで食べていた。



法人格の独立性

法人格否認の法理は,
株主と会社の関係が密接なケースで,
法人格の独立性を形式的に貫くことが正義に反する特定の事案で,
会社と背後の株主を同一視する法理です。

要するに,
特定の場合に会社に対する責任を背後の株主に追及する法理。
裁判例を調べていると,子会社の責任を親会社に追及する例もありました。
根拠は会社法3条(会社は、法人とする。)とされることが多いようです。
以前は民法の権利濫用の禁止を根拠として挙げられることもありました。

いずれも根拠が一般的抽象的です。
個別具体的な法律の規定では妥当な解決をみない場合,
理念や社会常識から解決を導き出す法理です。
これは最終的には裁判官の判断に委ねられます。
判例や裁判例の集積がある分野ですが,
最後の手段として主張されることが多いようです。
しかし,会社と株主は別です(会社法104条・株主の有限責任)。
法人格否認の法理はあくまで例外的な位置づけで,
会社に保証人でもない限り,株主は責任を負うことはありません。

前置きが長くなりました。
私は弁護士になって今年で3年目ですが・・

訴訟で法人格否認の法理を主張したことが1回
法人格否認の法理に反論したことが5回(うち3回は訴訟)あります。

結構,人から驚かれます。

教えに行ってる大学の学生に話しても同じ反応。

「(法人格否認の法理は)そんなに主張されるもんなん?」

私も未だに同じ考えです。
簡単に認められると,
何のために会社に固有の人格(法人格)認めているんだ,
ということになります。
法人制度の建前や先にお話しした株主有限責任です。

法人格否認の法理には2つのパターンがあります。


法人格の濫用(法人を不当な目的のために利用した場合)
法人格の形骸化(法人とは名ばかりで個人営業の場合等・子会社が親会社の一部門の場合)
いずれも法人格の独立性を貫くことが不当な場合です。

私が見たのは全て後者の形骸化事案です。
もっとも,形骸化事例には,法人格の濫用とはいえないものの,
不当に利用する意思が感じられる例もあります(形骸化しているから濫用した)。
当事者の言い分を聞いていますと,
「オーナー(背後の株主)がやったようなものだから,当然,責任も負うはずだ。」といいます。
この言い分を法的に構成したものは法人格否認の法理ということになります。


あくまで例外的な法人格否認の法理
しかし,多くの企業が法人格を否認されて責任を追及される危険をはらんでいます。

会社=企業オーナー(背後の株主)

原則と例外が逆転しています。
裁判所の判断が示されたものはまだありませんが,
形骸化事例の中に予防法務のヒントがあるとみています。




経営者保証

商売と無縁の家庭でも,
「保証人にはなったらあかん。」と周囲の人から言われました。

実際は,人生の局面で保証人を立てるように求められることはあります。
これはなかなか頼みにくい。
しかし,事業の継続のためには資金調達も必要です。
資金調達のためには借入,そして保証が必要となってきます。

保証契約も民法改正で少し変わりました。
保証契約の書面要件は平成16年改正です。実際には保証契約が作成される場合がほとんどでしょうが,それまでは書面を作成しなくても保証契約は成立しました。
そして,今回の改正。
保証契約の改正の歴史は,
保証意思(保証債務を履行する意思)の確認の歴史です。


保証,とりわけ個人保証(保証人が法人ではなく個人)の場合,
情義(断りにくい筋から迷惑をかけないと言われ)
軽率(ついつい軽率に)
未必(自分が責任を負う事態にはならないだろう)
の流れで保証人になってしまうのです。
あとは金融系Vシネでよくある展開です。
自分が借りたわけではないのに返済義務。
保証債務の履行責任とはそういうもので,
理不尽さを帯びたものです。

今回は事業債務の保証についてお話しします。
※事業債務→貸金等債務(主に民法465条の3に出てくる債務で金銭消費貸借契約に基づく貸金債務。売買代金債務や準消費貸借契約に基づく債務は含まない。消費貸借契約に基づく貸金債務を念頭に置いているのは,よく使われて金額が高額になることが多く保証人保護の必要性が高いから)を念頭に置いて説明します。

事業債務は金額が大きい。
さらに事業の不調は突然やってくる。
保証人にとって危険なので特別な規定を設ける。という流れの改正です。
ポイントは2点
①主債務者の情報提供義務(465条の10
②公正証書による保証意思の確認(465条の6

①は主債務者から保証人への情報提供で,内容は主債務者の財産状況や他の担保に関する事項です。
怠った場合,保証人は保証契約を取消すことができます。
保証契約書には次のような規定を設けることになります。
第〇条(債務者の情報提供義務)→表明保証条項です。
 主債務者は,民法第465条の10第1項各号に規定する情報を保証人に提供したこと,及びこの情報が真実であることを,表明し保証する。

②は保証契約に先立って,保証意思を公正証書で確認することです。
この公正証書を保証意思宣明公正証書,といいます。
保証契約書には次のような規定を設けることになります。
第〇条(公正証書による保証意思の確認)
 保証人は,保証契約の締結に先立ち,民法465条の6第1項及び第2項に従い,令和〇年〇月〇日付公正証書により,保証債務を履行する意思を表示したことを確認する。
保証意思宣明公正証書は保証契約書とは別です。また,公正証書には執行認諾文言(直ちに強制執行に服する旨の陳述)を入れたくなりますが,できないと考えられております。保証意思宣明公正証書は執行証書にはならないということです。ただ,これは法律上,禁止されているものではありません。今後の実務の運用を見ていく必要なあるでしょう。

②の例外が経営者保証です。
経営者が会社等の債務を保証する場合,保証意思宣明証書の作成は不要です。
経営者の範囲は,465条の9の通りです。
役員と実質的な経営者(株式会社の場合は議決権の過半数保有)です。
それと,主債務者と共同で事業を行う配偶者も含まれます。これは実務上の要請です。
従来から融資の際に経営者保証を求めることは必ずしも適切ではないと言われ,立案段階でも議論されました。
会社が破産する場合に経営者も破産することになり,
思い切った事業展開を委縮させ早期の事業再生を阻むことになるというのが理由。
一方でモラルハザードの問題もありました。
有限責任(法人と経営者の責任は別)と経営者による財産浪費の問題です。
会社の経営者の責任は別なのに,経営者が会社財産を個人的使途に用いる。

その結果,経営者保証は従来と同じです。
今回紹介した改正は,事業債務を経営者(465条の9に定める者)以外が保証する場合に意味を持つことになります。