カテゴリー: 債権法改正

何を保証したのかわからん

今週は裁判所に何回か赴きました。
遠方は早々にウェブ会議にしてもらいましたが,
他は出頭です。裁判所は徒歩圏内なので楽です。

最近,相続の相談を受けます。
比較的若い人も自分の相続のことを考えるようです。
最初はどこまで本気かわかりませんでしたが,
昨今の情勢からいろいろと考えるのでしょう。
何かあった時に迷惑をかけたくない,と。

迷惑というもの,
話を聞いていると自分の法定相続人を指すようです。
次に会社を経営している人は従業員と会社のこと。
債権者への迷惑はあまり考えないようです。
誰かが相続財産の中から清算してくれるだろうと。
この煩わしさも法定相続人の迷惑に含まれるようです。
遺言作成はそれほど難しいものではないです。
私は軽い気持ちで作成することを勧めます。

さて,
当然死ねばプラスもマイナスも相続されます。
自分が保証人となっている場合,
保証債務は保証人に相続されることになるのか。
基本的には相続されます。
相続人は被相続人(死んだ人)の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条ただし書き)。
しかし,保証債務の場合は責任の範囲について制限があります。
理由は保証人の保護です。
先日,話に出たのは不動産賃貸借の保証です。
(例:マンション入居時の連帯保証)
これは一定の範囲に属する不特定の債務の保証で,
根保証と呼ばれるものです(民法465条の2第1項)。
不動産賃貸借契約の場合は,賃貸借期間中に負担する一切の債務の保証。
信用保証ほどではありませんが,
保証人にとって予想外の債務となる場合があり,
保証人を保護する必要性が高い分野です。

改正法は,主債務の元本確定事由を定めました(民法465条の4第1項1号ないし3号)。
これにより保証債務の範囲も確定されることになります。
具体的には,債権者が保証人に強制執行した時や主債務者又は保証人が死亡した時です。
相談者はマンション入居時に子に保証人になってもらったそうですが,
相談者が死亡した時には元本が確定します。
※1 元本確定期日(民法465条の3)の規定は不動産賃貸借に適用なし。

元本の確定は,主たる債務者(賃借人)の死亡時点。
すると孤独死して発見が遅れ,
特殊清掃が必要となった場合の清掃費用はどうでしょうか。
これは賃借人の死亡後に発生していますので,
保証債務に含まれないことになります。
もっとも,個別の保証契約の趣旨に反する場合もあると思われますので,
裁判で争われることになるのではないかと予想しております。

※2 令和2年4月1日より前に保証契約が締結された場合に新法は適用されません(民法附則21条)。 

経営者保証

商売と無縁の家庭でも,
「保証人にはなったらあかん。」と周囲の人から言われました。

実際は,人生の局面で保証人を立てるように求められることはあります。
これはなかなか頼みにくい。
しかし,事業の継続のためには資金調達も必要です。
資金調達のためには借入,そして保証が必要となってきます。

保証契約も民法改正で少し変わりました。
保証契約の書面要件は平成16年改正です。実際には保証契約が作成される場合がほとんどでしょうが,それまでは書面を作成しなくても保証契約は成立しました。
そして,今回の改正。
保証契約の改正の歴史は,
保証意思(保証債務を履行する意思)の確認の歴史です。


保証,とりわけ個人保証(保証人が法人ではなく個人)の場合,
情義(断りにくい筋から迷惑をかけないと言われ)
軽率(ついつい軽率に)
未必(自分が責任を負う事態にはならないだろう)
の流れで保証人になってしまうのです。
あとは金融系Vシネでよくある展開です。
自分が借りたわけではないのに返済義務。
保証債務の履行責任とはそういうもので,
理不尽さを帯びたものです。

今回は事業債務の保証についてお話しします。
※事業債務→貸金等債務(主に民法465条の3に出てくる債務で金銭消費貸借契約に基づく貸金債務。売買代金債務や準消費貸借契約に基づく債務は含まない。消費貸借契約に基づく貸金債務を念頭に置いているのは,よく使われて金額が高額になることが多く保証人保護の必要性が高いから)を念頭に置いて説明します。

事業債務は金額が大きい。
さらに事業の不調は突然やってくる。
保証人にとって危険なので特別な規定を設ける。という流れの改正です。
ポイントは2点
①主債務者の情報提供義務(465条の10
②公正証書による保証意思の確認(465条の6

①は主債務者から保証人への情報提供で,内容は主債務者の財産状況や他の担保に関する事項です。
怠った場合,保証人は保証契約を取消すことができます。
保証契約書には次のような規定を設けることになります。
第〇条(債務者の情報提供義務)→表明保証条項です。
 主債務者は,民法第465条の10第1項各号に規定する情報を保証人に提供したこと,及びこの情報が真実であることを,表明し保証する。

②は保証契約に先立って,保証意思を公正証書で確認することです。
この公正証書を保証意思宣明公正証書,といいます。
保証契約書には次のような規定を設けることになります。
第〇条(公正証書による保証意思の確認)
 保証人は,保証契約の締結に先立ち,民法465条の6第1項及び第2項に従い,令和〇年〇月〇日付公正証書により,保証債務を履行する意思を表示したことを確認する。
保証意思宣明公正証書は保証契約書とは別です。また,公正証書には執行認諾文言(直ちに強制執行に服する旨の陳述)を入れたくなりますが,できないと考えられております。保証意思宣明公正証書は執行証書にはならないということです。ただ,これは法律上,禁止されているものではありません。今後の実務の運用を見ていく必要なあるでしょう。

②の例外が経営者保証です。
経営者が会社等の債務を保証する場合,保証意思宣明証書の作成は不要です。
経営者の範囲は,465条の9の通りです。
役員と実質的な経営者(株式会社の場合は議決権の過半数保有)です。
それと,主債務者と共同で事業を行う配偶者も含まれます。これは実務上の要請です。
従来から融資の際に経営者保証を求めることは必ずしも適切ではないと言われ,立案段階でも議論されました。
会社が破産する場合に経営者も破産することになり,
思い切った事業展開を委縮させ早期の事業再生を阻むことになるというのが理由。
一方でモラルハザードの問題もありました。
有限責任(法人と経営者の責任は別)と経営者による財産浪費の問題です。
会社の経営者の責任は別なのに,経営者が会社財産を個人的使途に用いる。

その結果,経営者保証は従来と同じです。
今回紹介した改正は,事業債務を経営者(465条の9に定める者)以外が保証する場合に意味を持つことになります。